くすぐられると、なぜか笑ってしまう。
この「くすぐりと笑い」の関係は、昔から誰もが経験している身近な現象です。
では、くすぐられて笑うことは、身体や気分に何か良い影響を与えるのでしょうか。
インターネットでは、
「くすぐるとドーパミンが出る」
「幸せホルモンが増える」
「ストレス解消になる」
といった話を見かけることがあります。
笑いや心地よい触覚刺激については、脳や身体のさまざまな反応との関係が研究されています。
くすぐりによる笑いは普通の笑いと少し違う
くすぐられて笑った経験がある人なら分かると思いますが、
面白い話を聞いて笑う時と、
くすぐられて笑う時では、
少し感覚が違います。
近年の研究でも、くすぐりによって起こる笑いは、ユーモアなどによって起こる笑いとは音響的にも特徴が異なることが報告されています。
くすぐりは、自分の意思で笑おうとしているわけではないのに、自然に反応が出てしまう刺激です。
この「無意識に出る反応」が、くすぐりの面白いところでもあります。
笑いとエンドルフィン
「笑うと気分が良くなる」と感じたことがある人は多いでしょう。
笑いについての研究では、社会的な笑いが脳内の内因性オピオイド系と関係することが報告されています。
内因性オピオイドは、身体の中で作られる物質で、痛みの感じ方や快感、安心感などに関係します。
一般には「エンドルフィン」という言葉で知られているものも、この系統に含まれます。
研究では、笑った後に痛みに対する耐性が高くなるという結果も報告されています。
ただし、
「くすぐり=エンドルフィンが必ず出る」
と単純に考えるのではなく、
「くすぐりによって自然な笑いが起こり、その笑いに関連する身体反応が起こる可能性がある」
くらいに考えるのが適切です。
オキシトシンと「触れられること」
オキシトシンは、よく「幸せホルモン」「愛情ホルモン」と呼ばれます。
本来はもっと幅広い働きを持つ物質ですが、人と人との関係や社会的な結びつき、安心感などとの関係が研究されています。
心地よいタッチやスキンシップについても、オキシトシン系との関連が研究されています。
重要なのは、
「誰に、どのように触れられるか」
です。
同じ触れ方でも、
信頼できる相手に触れられる場合と、
嫌な相手に突然触れられる場合では、
感じ方はまったく違います。
くすぐりも同じで、本人が楽しめる状況であることが大切です。
ドーパミンとの関係は?
ドーパミンは、意欲や報酬、期待などに関係する神経伝達物質として知られています。
心地よい触覚刺激や、人との楽しい交流には、ドーパミン系を含む脳の報酬系が関係すると考えられています。
くすぐりについても、
「次はどこをくすぐられるのか」
という期待そのものが脳の一部を活動させることが研究されています。
つまり、くすぐりの場合、
触られた瞬間だけではなく、
「これからくすぐられる」という予測や緊張感も体験の一部になっています。
くすぐりフェチの人が「始まる前から楽しい」と感じることがあるのも、こうした期待感と無関係ではないかもしれません。
くすぐりはストレス解消になる?
- 笑うこと
- 人と楽しく触れ合うこと
- 遊びとして身体を動かすこと
には、気分転換につながる面があります。
実際、
「たくさん笑った後にスッキリした」
と感じる人は少なくありません。
くすぐりを楽しめる人にとっては、短時間でも日常と違う刺激を受け、思い切り笑うことが気分転換になる可能性はあります。
すべての人に「良い刺激」ではない
ここは非常に重要です。
くすぐりが苦手な人にとっては、楽しいどころか強いストレスになります。
また、強すぎるくすぐりを長時間続ければ、呼吸が苦しくなったり、身体に負担がかかったりすることもあります。
だからこそ、
- 本人が楽しんでいること
- 止めたい時にすぐ止められること
- 強さを調整できること
が大切です。
「幸せホルモンが出る」は少しだけ慎重に
インターネットでは、
「くすぐりでオキシトシンが大量に出る」
「ドーパミンが増えるから健康に良い」
といった断定的な表現も見かけます。
しかし現時点では、そこまで単純に断定できる研究結果は十分ではありません。
一方で、
- 笑い
- 心地よい触覚
- 社会的な交流
- 楽しい期待感
が、オピオイド系、オキシトシン系、ドーパミン系などと関係していることは研究されています。
くすぐりは、これらが同時に組み合わさる、とても興味深い刺激なのかもしれません。
まとめ
くすぐりをすると「幸せホルモンが出る」と一言で片づけるのは少し乱暴です。
しかし、
- くすぐりによる自然な笑い
- 人に触れられる刺激
- 次に何が起きるかという期待
- 相手とのコミュニケーション
には、脳の報酬系や社会的な結びつきに関わる仕組みとの関連が研究されています。
くすぐりが好きな人にとっては、単に「くすぐったい」だけではなく、笑うことや期待することまで含めた体験そのものが楽しいのかもしれません。
今後、くすぐりについての研究がさらに進めば、この不思議な感覚の仕組みももっと明らかになっていくでしょう。
参考:
- Social Laughter Triggers Endogenous Opioid Release in Humans
- Social laughter is correlated with an elevated pain threshold
- The neurobiology of ticklishness
- Affective regulation through touch: homeostatic and allostatic mechanisms
- Tickling induces a unique type of spontaneous laughter